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大阪地方裁判所 平成4年(ワ)4770号 判決 1999年3月30日

名古屋市<以下省略>

第一事件原告

X1

右訴訟代理人弁護士

小泉哲二

神戸市<以下省略>

第一事件原告

X2

右訴訟代理人弁護士

大櫛和雄

右訴訟復代理人弁護士

櫛田寛一

小泉哲二

大阪府茨木市<以下省略>

第一事件原告

X3

右訴訟代理人弁護士

横内勝次

右訴訟復代理人弁護士

櫛田寛一

大阪市<以下省略>

第一事件原告

X4

右訴訟代理人弁護士

櫛田寛一

和歌山県和歌山市<以下省略>

第二事件原告

X5

右訴訟代理人弁護士

原田裕

増田健郎

右訴訟復代理人弁護士

山﨑敏彦

東京都千代田区<以下省略>

第一、第二事件被告

大和証券株式会社

右代表者代表取締役

和歌山県和歌山市<以下省略>

第二事件被告

Y1

右被告両名訴訟代理人弁護士

堀弘二

浦野正幸

主文

一1  第一、第二事件被告大和証券株式会社は、第一事件原告X1に対し、金三五八万〇九二七円及びこれに対する平成二年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一事件原告X1のその余の請求を棄却する。

二1  第一、第二事件被告大和証券株式会社は、第一事件原告X2に対し、金二六万九二四一円及びこれに対する平成二年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一事件原告X2のその余の請求を棄却する。

三1  第一、第二事件被告大和証券株式会社は、第一事件原告X3に対し、金三一五万二三八四円及びこれに対する平成四年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第一事件原告X3のその余の請求を棄却する。

四1  第一、第二事件被告大和証券株式会社は、第一事件原告X4に対し、金二一四四万二四七五円及びこれに対する平成元年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合の金員を支払え。

2  第一事件原告X4のその余の請求を棄却する。

五1  第一、第二事件被告大和証券株式会社及び第二事件被告Y1は、第二事件原告X5に対し、各自、金四〇五万九二三五円及び内金三六八万九二三五円に対する平成四年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  第二事件原告X5のその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、原告X1に生じた費用の一〇分の七と第一、第二事件被告大和証券株式会社に生じた費用の五〇分の七を第一事件原告X1の負担とし、原告X2に生じた費用の一〇分の九と第一、第二事件被告大和証券株式会社に生じた費用の五〇分の九を第一事件原告X2の負担とし、第一事件原告X3に生じた費用の一〇分の六と第一、第二事件被告大和証券株式会社に生じた費用の五〇分の六を第一事件原告X3の負担とし、第一事件原告X4に生じた費用の一〇分の一と第一、第二事件被告大和証券株式会社に生じた費用の五〇分の一を第一事件原告X4の負担とし、第二事件原告X5に生じた費用の一〇分の七と第一、第二事件被告大和証券株式会社に生じた費用の五〇分の七及び第二事件被告Y1に生じた費用の一〇分の七を第二事件原告X5の負担とし、第一事件原告らに生じたその余の費用、第二事件原告X5に生じた費用の五分の一及び第一、第二事件被告大和証券株式会社に生じたその余の費用を第一、第二事件被告大和証券株式会社の負担とし、第二事件原告X5に生じたその余の費用及び第二事件被告Y1に生じたその余の費用を第二事件被告Y1の負担とする。

七  右第一ないし第五項の各1項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

(第一事件)

一  被告は、第一事件原告X1に対し、金一二四一万一六六八円及びこれに対する平成二年一一月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、第一事件原告X2に対し、金一四四万一五〇〇円及びこれに対する平成二年一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、第一事件原告X3に対し、金七一五万五九六二円及びこれに対する平成四年六月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、第一事件原告X4に対し、金二三八一万三八六二円及びこれに対する平成元年一二月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(第二事件)

一  被告らは、各自、第二事件原告X5に対し、金一七五〇万〇八七二円及び内金一六〇〇万〇八七二円に対する平成四年一二月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、ワラントを購入した顧客らが、勧誘行為の違法性、適合性原則違反、断定的判断の提供、説明義務違反等を理由に、証券会社に対し(第一事件)、あるいは、右証券会社及びその担当者に対し(第二事件)、不法行為に基づく損害賠償請求等をした事案である。

一  争いのない事実

1  当事者等

原告らはいずれも、第一事件及び第二事件被告大和証券株式会社(以下、「被告会社」という)から、ワラントを購入した者であって、ワラントの取引開始時にはそれぞれ、第一事件原告X1(以下「原告X1」という)は旅館斡旋業を営み、第一事件原告X2(以下「原告X2」という)は玩具、人形の販売業を営み、第一事件原告X3(以下「原告X3」という)は製薬会社で勤務し、第一事件原告X4(以下「原告X4」という)は自動車販売会社営業所所長であり、第二事件原告X5(以下「原告X5」という)は教員を退職した者であった。

被告会社は、有価証券等についての、自己売買、売買の委託の媒介・取次・代理・引受け・売出し、募集又は売出しの取扱について大蔵大臣から免許を受けた証券会社である。

原告らにワラントを販売した際の、被告会社の担当者は、原告X1についてはB(以下「B」という)及びC(以下「C」という)、原告X2についてはB、原告X3についてはD(以下「D」という)、原告X4についてはE(以下「E」という)、原告X5については第二事件被告Y1(以下「被告Y1」という)であった。

2  ワラント

ワラントとは、一定の期間(権利行使期間)内に、あらかじめ決められた金額(権利行使価額)を払い込むことによって、新株を取得することができる権利又はこの権利が表象された証券のことをいう。新株引受権付社債の一部であるが、社債部分から分離され独立の取引対象とされることが多い。

3  本件各取引

原告らは、被告会社との間で、それぞれ別紙取引一覧表記載のとおりのワラント取引(以下、原告ごとに「本件取引」といい、その全てを指すときには「本件各取引」という)を行い、本件各取引により同表各記載のとおりの損失を被った。

二  争点

1  原告らに対する外貨建ワラントの販売ないし勧誘行為自体の違法性

2  被告会社担当者らによる原告らへの勧誘の適合性原則違反、説明義務違反等の不法行為の成否

3  損害額

三  原告らの主張

1  ワラントの特質、法的規制等

(一) ワラントの本質は、株式類似の証券と言うよりオプション取引であり、顧客が自主的に判断するためには、①当該ワラントの権利行使期限の時期、②権利行使期限を徒過すると無価値となること、③当該ワラントの権利行使価格、④当該ワラントの購入金額から一株あたりのワラント買いコスト、⑤当該ワラントの権利行使価格及び当該ワラント購入コストの合算額と現在の株価を比較する必要があること、⑥ワラント譲渡価格は、株価に連動するパリティ部分の数値とプレミアム部分の数値で構成されていること及びその各数値を、いずれも知っていることが最低限必要である。すなわち、ワラントには権利行使期間があり、株価が権利行使価格を下回った場合にはまったくメリットがなく、権利行使期間が経過すると完全に紙屑になり、権利行使をするとしても新たな金員の振込を要するのである(実際にもすでに紙屑となったワラントは野村証券発行のユーロドル・ワラント債の分離型ワラントの他に数十銘柄に及ぶ。)。

また、ヘッジ取引として利用する投資手法はあるが、どの程度の量のワラントの買付けが必要となるかの判断は高度に専門的であるし、ワラントを有効に活用するためには権利行使しうる資金力が不可欠であり、結局、証券会社や機関投資家にしか有効に活用できない。

さらに、ユーロドル建てワラントはユーロ市場で販売されることを前提にしており、英文の目論見書にも「本件ワラント債、エクスワラント(社債部分)、ワラントのいずれも日本において、又は日本の居住者に対して、直接間接を問わず、提供、販売、交付されてはならない」と記載されているなど、海外ワラントを国内に持ち込むことは、募集ないし売出しあるいは販売に該当し、本件各取引自体が違法と言うほかない。

なお、自己責任の原則は、その適用適格者(能力)と情報開示を内容とする適用適格環境(状況)が前提であって、証券投資取引においてむやみに強調すべきではなく、ワラント取引の場合は右前提を欠く。

(二) ワラントの価格は、株価の変動率よりも何倍にも変動し、外貨建ワラントでは為替相場の変動による危険性もはらむ。また、ワラントは、国内の証券市場では取引できず、外国の証券取引所上場のものを委託取引で注文(外国取引)するか、国内の証券会社との相対取引(国内店頭取引)を行うしかないが、実際上相対取引がなされているのであって、厳格な規制のある取引所取引が行われず、平成元年四月三〇日までは一部の例外を除きワラント価格の開示がされていなかったなど価格形成が不透明であって、ディーラー業務において自ら売買当事者となり不当なプレミアムをつけて証券会社が利益を得た可能性も否定できない。価額形成の不透明さは大口顧客に対する損失補てん事件で利用されたところから明らかである。

また、顧客が証券会社へ価格を問い合わせようにも、現実には売りっぱなしであり、実際問い合わせても曖昧なままごまかしており、四季報にワラント価格の記載があっても、その読み方の説明はもちろん、四季報に記載があること自体の説明を受けておらず、価格を知ることなど到底不可能である。

(三) ワラントに対する法的規制の概要は以下のとおりである。

(1) 証券取引法(以下「法」という)

ワラントは証券取引法の規制を受ける証券であり(二条一項六号)、証券業務は業務を公正かつ的確に遂行することのできる知識及び経験を有しかつ十分な社会的信用を要するものとして免許制が取られ(三一条)、証券会社は断定的判断の提供による勧誘や虚偽、誤解を生ぜしめる表示など不当勧誘を禁止され(五〇条)、適合性原則にかなった投資勧誘を求められる(五四条)。

(2) 証券会社の健全性の準則に関する省令(以下「健全性省令」という)

法五〇条を受け、具体的に規制し、特に虚偽、誤解を生ぜしめる表示を禁止し、過度の勧誘を禁止している。

(3) 投資者本意の営業姿勢の徹底について(以下「投資者本位通達」という)

一律推奨販売の規制、適合性原則、取引開始基準作成義務、過当な信用取引の規制、一任取引、事後承諾の押しつけの禁止、回転売買について規制している。

(4) 公正慣習規則

日本証券業協会の自主規制規範であるが、店頭取引に関する規制(一号)、外国証券取引につき発行者の資料・重要資料の閲覧提供義務、国内の証券取引法上の企業開示不存在についての説明義務(四号)、証券業従業員に対する禁止行為を定め(八号)、投資勧誘の態様等も具体的に規制している(九号)。

(5) IOSCO行為規範原則

証券監督者国際機構が平成二年一一月に採択した七つの原則からなる行為規範原則がある。

(四) ワラント取引は、証券会社にとってはディーラー業務である点から、リスクは顧客が負担しながら、証券会社には、発行手数料、売買委託などの手数料、ワラント取引の利ざやという一石三鳥の利益が上がる構造にあり、昭和六三年ころから大きな収入源と見込んでワラントを個人投資家にも売りさばいたのである。また、それはワラント価格を買い支えるために至上課題だったといえる。

しかも、ワラントが取引の対象とされる経緯をみても、社団法人日本証券業協会が国会の商法部会に要望し、大蔵省が危惧感を持ちながらも法改正により法的に認められるようになったもので、それでも当初はワラント取引は自主規制されていたが、昭和六〇年一〇月にワラントの周知性の欠如、価格変動の激しさといった問題点を手当することはないまま解禁されたものである。この点、商法がワラントの取引を認めていることと外貨建ワラントが販売に適さない商品であるか否かは別個の問題である。大蔵省の指導監督の下で実施されていた証券業界の自主規制も法令と同様規範の一部を構成する。

(五) また、証券取引による被害多発の背景には、証券会社の大口顧客優遇体質や厳しいノルマ制と大量推奨販売を進める体質がある。

2  勧誘行為自体の違法性

ワラントの右特質、解禁の経緯等に照らしてみれば、ワラントを社債部分から切り離して販売すること自体疑問で、独自の立場で証券会社と対等に取引をなし得る者が自ら望んで取引する場合以外は、その販売行為自体が違法である。

右のような問題点が大きい商品が、証券会社の積極的働きかけにより販売された場合には自己責任原則を適用する余地もないし、また、店頭取引(相対取引)は、市場や相場がなく、また、証券会社と顧客との利益が相反する上、証券会社は専門的能力を有しており取引の客観性は担保されていない。

公正慣習規則一号は登録以外の店頭銘柄の投資勧誘を禁止しているところ、外貨建ワラントはこれに該当するし、同四号が外貨建ワラント等の店頭取引につき顧客の希望が必要としているところ、右の希望の意味は積極的かつ自発的な希望を意味することは明らかである。

よって、外貨建ワラントの問題点を全て理解し、自ら積極的に取引することを望む者の他は自己責任の主体たり得ず、このことを証券会社及びその使用人は認識しており、一般投資家に対する勧誘行為をしないという注意義務を負う。

前述のワラント取引の専門性、分離型ワラントの解禁に至る経緯、相対取引性、情報開示の不備、脱法行為性、商品構造から来る内在的欺瞞性、さらには、個人投資家が、オプション取引やヘッジ取引とは無縁の単品取引により証券会社の引受業務による利益と都合のみで販売された商品であることからすれば、個人投資家に対する販売は事実上違法との推定が働き、この推定を破る特段の事情(適合性、勧誘前のワラントの商品知識、証券会社への積極的申し込み等の事情)を証券会社が立証したときに初めて適法となると言うべきである。

なお、公正慣習規則一号一三条、同四号一〇条を文理解釈すれば、ワラントのような店頭株以外の勧誘禁止を定めているともいえる。

3  勧誘態様の違法性

被告会社の原告らに対する勧誘態様には、以下のとおりの違法がある。

すなわち、投資者の意向、経験、資力に適合した取引を勧誘しなければならず、これに反したという適合性の原則違反、断定的判断の提供、さらに、ワラントの内容、仕組み(行使価格、譲渡価格、行使株数、市場株価との関連性の見方、価格の知り方)のみならず、危険性(社債と分離された期限付き商品であって行使期間経過後には紙屑となること、売出価格の設定が高く株価が下落すれば挽回できず価格変動が激しく合理性もないこと、オプション取引であって投資判断が難しく素人向きではないこと、そして、相対取引であること)を説明しなければならないのに、被告会社従業員がこれをしなかったという説明義務違反があるほか、虚偽表示、誤解を生じさせる表示をした事実がある。

原告X1

原告X1は、昭和一八年に旧制中学を卒業後、馬車運搬業をしていたが、戦後は故郷でゴム靴の卸業を始め、昭和二二年に神戸市でゴム製造業を始めたものの手形詐欺の被害に合ってから昭和二四年より温泉旅館の番頭となり、昭和二八年からaホテルにおいてその名古屋及び大阪の所長を経由し、昭和三八年から平成二年六月まで旅館斡旋業を業とするbセンターの経営をしていた。

被告会社神戸支店のBは、原告X1が昭和六一年一一月一七日に積水ハウスワラントを購入した際には、「新しい発行株があるからこれを是非買って下さい」というだけでワラントの言葉もなく、昭和六二年に協和発酵ワラントを購入した際初めてワラントなる言葉を使用し、「値段がぐっと下がったら、新株発行権があるから、新株発行で新株がもらえるから、それで操作すれば損は絶対ありません。」と、簡単なパンフレットを見せただけで十分なワラントの理解のないままにワラント取引を勧誘し、原告X1はこのために右ワラントを購入した。

Bの転勤後Cが原告X1の担当を引き継いだが、Cは、平成二年六月五日ころ、「ワラントは新株発行の時には、額面でもらえる権利があるから、株価が上がりだしたらものすごく上がります。ワラントなら損を取り返せます。ワラントの値段が下がった場合は、株券を引きとれば良いのですから、まるまる損をすることはありません。」といって、ソニー株式会社のワラントを勧めたので、原告X1はこれを購入し、その後もCの勧めに従いワラントを購入したが、住友金属工業、イズミ、日本電気はマイナスパリティで購入しており、購入と同時に権利行使すれば市場で株式を購入するより損をするワラントであった。その後、Cの上司が平成三年一月頃電話により、「えらい損を掛けてすいません。」というのでCに問い合わせたところ、Cは「ワラントは下がって処置のしようがありません。」というので、寝かせておく他はないと考えていたところ、ワラントは権利行使期間があることを、平成三年九月にBから聞いて初めて知った。

原告X1は証券取引に関わりのある職業に従事したことはなく、証券取引に向けた資金力は一五〇〇万円程度のところワラントに約一三一六万円の資金を投入し、投資経験も財テクとして行っていた程度であってワラント取引の適合性はなく、B、C自身もワラントの仕組み等を十分理解していないため原告X1に、ワラントの意義、権利行使価額、取得株式数及び権利行使期間、外貨建ワラントの価格変動等についてまったく説明していないし(立石電気、住友金属工業、イズミ及び日本電気は全てマイナスパリティである)、Bは説明書さら交付しないで取引の勧誘をし、このため原告X1はワラントについてまるで理解しないまま本件取引を開始、継続していたのであって、B及びCには説明義務違反がある。

(二) 原告X2

原告X2は、現物株式取引の経験はあるが、被告会社神戸支店営業担当社員Bから、住友商事ワラントの勧誘を受けたとき電話で一〇分ほどの説明を受けただけであり、平成元年一一月二一日及び同月二七日に住友商事ワラントを二回購入しているものの債券の取引程度の認識しかなかったところ、本件取引においては「トーメンの外債である。」と説明され、平成二年一月一〇日、原告X2が元本の保証があるかを尋ねた際にも「元本どころではない、もっとようなりますよ。心配ありません。まかせといて下さい。」と強く勧められ、トーメンのワラントを外債と誤信して購入した。原告X2は新株引受権証券あるいはワラントという言葉さえ言わず、説明書類も一切交付を受けなかった。

そうして、原告X2は、被告会社営業社員の堀から、平成四年一月中旬、「ワラント債を持っていてもダメですよ。ワラントの詳しい説明は解らないでしょうが、紙屑になってしまいますよ。訴訟でもされれば、五〇万円ぐらい返るかもしれませんよ。」と告げられ、ワラントが紙屑同然になっていることを初めて知った。

以上の通り、原告X2は、取引時には六五歳で、現物株、転換社債及び信用取引の経験はあるが当時の証券会社の担当者の指示に従っていた一般投資家にすぎないのであってワラント取引の適合性はないのに、Bは、あたかも元本が保証された安全な商品であると故意に誤った事実を述べて断定的判断を提供したものである。

なお、予備的主張として、Bが「トーメンの外債である」などと説明をしたため原告X2に錯誤が生じたのであるから、本件取引は錯誤により無効である。

(三) 原告X3

原告X3は、昭和四年生まれで、主に営業業務をしていた会社勤めを平成二年に定年退職した者であるが、本件取引の一〇年くらい前から株式の現物取引をしたのみで信用取引、先物取引等の投機的投資の経験は全くなかった。

原告X3は、被告会社茨城支店の担当者Dから、自宅への電話により、「大和証券で買うたもんがある。これは非常にええもんや。もうかる。」と勧められ、昭和電工のワラントを購入したが、行使期限などの説明は全くなかった。その後も、新日鉄、三菱ガラス化学と本件取引においてワラントを購入させられた。

原告X3は、昭和電工ワラント買付時で満五九歳で、会社でも経理業務に関与したことはなく証券を扱うこともなかったし、本件取引前には利付き国債、転換社債、投資信託、現物株のみの取引経験しかなく、信用取引やワラントの取引経験はなかった上、証券投資目的も定年後の蓄えとして銀行より少し利回りを良くしたいとする程度のものであって、着実に利益を図ろうとする投資傾向を有していたにすぎないから、ワラント取引の適合性はない。それにもかかわらずDは、「非常にええもんや。もうかる。」と断定的判断を提供し、ワラントについて要求される説明、特に行使期限を経過すると紙くず同然となるハイリスク商品であることの説明を全くしなかった。

(四) 原告X4

原告X4は、自動車販売業を行っていたが、仕事上のつきあい程度で平成元年一〇月頃より現物株式の取引を被告会社に委託し、別紙本件ワラント買付までの経緯記載の程度の取引しかなかったが、現物株式について問い合わせをした同年一二月一八日ころ、被告会社梅田支店担当者Eより、「今株が高くなっているから、現物株は買えませんよ。ワラントはどうですか。値上がりが大きくて面白いですよ。」と、ワラントがハイリスクな商品であることを秘して購入を勧められ、原告X4が心配となって確かめても「大丈夫です。儲かります。」と自信ありげに答えたので、日本石油、日本鉱業のワラントを購入した。平成三年一〇月、被告会社からのワラントに関する通知について説明を求めに被告会社梅田支店に出かけたところ、購入したワラントが紙くず同然になっていることを知った。

原告X4は投資経験はほとんどなく、取引先とのおつきあい程度であって、ワラント取引の適合性はない。また、Eは、ワラントについて「儲かります。」などと断定的判断を提供し、さらに、原告X4が現物株に関心あることを理由に断っているのに、これを無視して強引で執拗な勧誘をした。

(五) 原告X5

原告X5は、大正八年○月○日生まれの女性であり、昭和一七年に女子師範学校を卒業後、昭和五七年まで小学校教員として勤務してきたが、本件取引開始時には既に七〇歳に達していた。

原告X5は、昭和四〇年ころに二、三の現物株式を売買したが、昭和四六年被告会社に取引口座(F名義)を開設したものの、昭和五七年まではほとんど取引はなく、同年から転換社債、中期国債ファンド、等のリスクの少ない商品を購入したものの転換社債と社債の区別もつかなかった。

その後、被告Y1が、平成元年一〇月一二日ころ及び同年一一月一一日ころ、原告X5方を訪れ、「資金が少なくて絶対儲かる商品です。」とワラントの購入を勧誘したため、原告X5は本件ワラントを購入したものである。

原告X5の年齢、投資経験からワラント取引の適合性はないのに、「少ない資金で儲けの大きい商品である。」等と断定的判断を提供し、被告Y1は電話で短時間の説明をしたにすぎず、原告X5の投資経験に照らし説明義務を尽くしたとはいえない。さらに、夜間に架電するなど強引で執拗な勧誘があったし、原告X5がワラントの保有数が多数になり不安になり処分を要請した際にも「まさかの時には企業が何とかしてくれます。心配いりません。」と返答して仕切を拒否した違法がある。

4  原告らの損害

(一) 原告X1 合計金一一九一万六四二五円

本件取引による損害 金一〇八三万六四二五円

弁護士費用 金一〇八万円

(二) 原告X2

本件取引による損害 金一四四万一五〇〇円

(三) 原告X3

本件取引による損害 金七一五万五九六二円

弁護士費用 金一〇〇万円

(四) 原告X4

本件取引による損害 金二一七一万三八六二円

弁護士費用 金二一〇万円

(五) 原告X5

本件取引による損害 金一六〇〇万〇八七二円

弁護士費用 金一五〇万円

5  被告らの責任

被告会社従業員らの原告らに対する以上の行為はいずれも民法七〇九条に該当し、被告会社は民法七一五条により、被告Y1は同法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。

なお、予備的に原告X2の本件取引は錯誤により無効であって、被告会社は原状回復義務を負う。

四  被告らの主張

1  ワラントの特質、法的規制等

(一) ワラントと転換社債の転換権は、一定の期間内に一定の価格で一定の数量の株式を取得することができる権利である点、パリティやプレミアムといった概念もある点で同じで、償還期限となると値上がり部分の価値を失う点も同じであって、これらの性質はワラントに特有のものではない。かえって、ワラントは社債部分がないため投資金額が少額で済む上、信用取引のような追加証拠金、決済時の差損金、及び、現引により投資を継続せざるを得なくなることもなく、当初の投資資金以上に損失が拡大することがない特質を有し、権利行使期間があるとの特質はメリットと評価することができる。

そして、原告らはワラントの本質はコールオプションであるとするが、ワラントはワラント価格が上昇すれば権利行使価格やワラント買いコストを上回っていなくても転売利益を上げることができるから、コールオプションの取引形態で活用する場合の投資判断と必ずしも同じである必要はない。

(二) また、値動きが大きいことは、信用取引で少額の資金で多数の株式を購入するのと同様、ワラントでも少額で多数の株式を購入する権利に投資したことの当然の結果であって、ワラントに特有のことではない。かえって、将来の株価変動によっては多くの利益を期待することができる。そして、将来の価格変動要因についての的確な分析と予測が容易ではない点は、証券取引ではどの商品にも言え、ワラントに限られたものではない。しかも、価格形成要因には投資者の心理により左右される部分があって価格が理論的に形成されるものではなく、分析と予測が必要不可欠でもない。さらに、ワラントの価額は、パリティだけで構成されているのではなく、価格変動要因に対する見込(プレミアム)によっても変動する点で他の証券と同様である。そして、ワラントはプレミアムの考慮の度合いが投資者により様々であるからこそ投資妙味が見いだされる経済活動であって、工業製品と比較すると価額形成の仕組みが複雑であることは他の証券と同様であって、ワラントの価格変動に合理性がないということはない。また、ワラント取引にあっては、現物株式と同様、多くの投資者は売買による差益を取得することを目的としており、近い将来ワラントの価格が上昇する可能性があるかどうかを考慮すれば足り、マイナスパリティであることは取引を行う何らの妨げとならない。

そして、外貨建ワラントが為替相場の影響を受けることは他の外国証券も同様であり、かえって、円高になるとワラントのドル評価でのパリティが上昇し、円換算での資産評価の目減りを相殺するため、外国株式よりも為替リスクが少ないとも言える。

また、相対取引自体は、動産、不動産を問わず多くの商品で行われており、価格も証券各社が、昭和六三年まではロンドンの取引者間の気配値を、平成元年以降はこれに加え国内の業者間市場の気配値等を参考にして決定するもので、恣意的に決定したり個々の交渉で決定したりするものではなく、実際にも証券会社ごとで大きな差異はなかった。そしてそもそも証券各社で価格が異なるのは自由競争市場では当然である。原告らは外貨建ワラントが相対取引につき買戻であることを前提に主張するが、証券会社にとっては新たな買付であり、損益の確定は、その新たな買付時に確定するのであって、証券会社と顧客の間には、原告らが主張するような利害の対立は生じない。

原告らは、ワラント取引が損失補償の手段として使われたと主張するが、仮に手段に利用されたとしても、それは単に外貨建ワラントの取引を仮装して利益提供がなされたにすぎず、ワラントの価格決定が恣意的にされたからではない。

なお、平成元年五月以降に新聞紙上で業者間市場の気配値を公表するようになったが、投資情報を得る最もポピュラーな手段は証券会社への現在価格の問い合わせであり架電自体は困難を伴うものではない。新聞での公表は情報入手経路が多様化したにすぎない

また、証券取引は、開示された情報を基礎に投資者がその判断と責任において行うという投資者の自己責任の原則に立っているが、開示された情報の収集については投資者が行うべきものである。

(三) 証券取引法の規制の仕方としては、法五〇条が、価格の騰落についての断定的判断の提供による勧誘(一号、二号)、取引一任勘定を内容とする契約の締結(三号、四号)、公正な価格形成を損なうおそれがある特定の勧誘(五号)をそれぞれ禁止し、健全性省令二条では、虚偽又は重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示(一号)、特別の利益提供による勧誘(二号)等を禁止しているが、これら禁止行為を概観すると、証券会社の説明や助言の重大な影響を考慮して、投資者の合理的判断を妨げるおそれがあることに配慮したものであったり、安易な投資判断に至らせるおそれがあることに配慮したものであって、結局は、投資者の自由な判断と責任によって証券取引を行われるべきことを前提に、公正な証券市場の確保とともに投資判断に不当な影響を及ぼすことを禁止したものといえ、投資者の調査や判断を積極的に援助すべき義務(作為義務)を認めているものとはいえない。投資者の自己責任原則と投資者の保護の調和を図ろうとした法の趣旨からすれば、法の明文の規定に反したものでない限り、投資者は自己責任の原則に基づき、その取引による損失を負担するべきである。

また、不特定多数の者への販売は証券取引法上の「募集」にあたり、目論見書の交付が必要とするが、外貨建ワラントの販売は「募集」にはあたらない。

(四) ワラントが一般に取引される経緯についても、ワラントは、昭和五六年六月の商法改正で、分離型ワラントの発行及びワラントのみの譲渡を明文で認めている。自主規制も当時は一般になじみがなかったころから導入に慎重であったにすぎず、ワラント自体が販売に適さない商品とはいえない。なお、周知性の問題はワラントの取引に関与する者がその商品を認識すれば足りるし、価格変動の激しさは、ワラントの持つ特徴で取引需要に応じたものである。

そして、以上に見たように、ワラントはこれまでの投資商品の特徴を個々に抽出して組み合せた、組み合わせ方に特質があり、他の投資商品での取引経験がワラントの商品内容の理解に役立つことは明らかである。

2  勧誘行為自体の違法性

右にみたとおり、昭和五六年の商法改正によって法律の明文により認められている商品が販売に適さないとか言うことは決してなく、その勧誘行為自体が違法性を帯びるとは到底いえない。

そして、以上のワラントの商品内容、価格形成、創設された経緯からすると、本来証券取引は最終的には自己の責任で判断するべきであって、仮に勧誘されても顧客には購入する義務は何らないことから、ワラント取引は積極的に申込みをした顧客との間においてのみに限定されるべき等の主張は理由がない。投資者の保護といっても、証券取引は必要不可欠な消費活動とは本来的に異なるため、投資者保護の仕方も消費者保護に比し制限的に解するべきである。証券取引法も、あくまで投資者の自由な判断と責任によって行われることを前提とした上で、公正な証券市場の確保と投資者の判断に対する不当な影響を防止するために、証券会社に対し一定の義務を課しているにすぎない。

3  勧誘態様の違法性

いわゆる適合性原則は、証券取引法五四条一項一号に定められた大蔵大臣の行政処分の要件を定めた規定であって、証券会社に対し一定の行為の禁止を命じた規定ではなく、したがって適合性の原則自体が不法行為法上の法的義務かどうか疑問であるが、仮に法的義務があるとしても顧客の同意を得てなされた取引である以上その違反が直ちに不法行為を構成するものではない。また、そもそも投資者の投資経験は、通常は、それを認知する投資者自身が明らかにしない限り把握することはできず、仮にその事実を詳細に確認した後でなければ取引を勧誘できないとすれば投資勧誘は事実上不可能である。そして、証券会社ができるだけ幅広い情報や選択肢を投資者に提供すること自体を禁止するべき理由はない。そうだとすると、証券会社の認識していた事実を前提として明らかに適合性を欠く取引を積極的に勧誘した場合にのみ違法性を有すると考えるべきである。

なお、被告会社では平成元年四月一九日以降、勧誘の対象とする顧客を証券投資に関する相当の知識と経験があること、原則として預かり資産額が一〇〇〇万円以上であることという取引開始基準を定めている。

説明義務の存否についても、証券会社に投資者の調査や判断を積極的に援助するべき義務はなく、単に営業政策上損失が顧客に帰属すると紛争に発展する可能性が高いため自主ルールを定めたにすぎず、仮にこれを法的義務としても個々の投資家ごとに個別に判断するべきである。そして、ワラントの性質、取引システムについての説明は、ハイリスクハイリターンであるとの注意喚起をすれば十分であり、説明の範囲がワラントの性質及び取引システム全体に及ばなければならないわけではない。

(一) 原告X1

原告X1は、昭和三八年から平成二年六月まで、旅館斡旋業を営んでいたが、大阪支店営業部において昭和四二年に取引口座を開設して証券取引を開始し、昭和五四年一〇月には信用取引口座を開設した。その後、担当者のBが神戸支店に赴任してから、神戸支店において昭和六一年三月一三日本件の取引口座を開設し、同年三月三一日には神戸支店でも信用取引口座を開設した。その後の取引内容は国内株式を中心とするが、転換社債、投資信託、外国株式、外国債券にまで及び、かつ、昭和五四年一〇月から約一〇年間は信用取引を長期間継続的に行っている。また、取引額も一ヶ月あたり数千万円に及び、購入後一ヶ月以内に短期決済した取引も非常に多い。専門用語にも通じ、証券取引に関する知識は豊富である。

Bは、昭和六一年一一月一七日、電話でワラントの商品内容などを説明した上、行使期限があること、株価の動き以上に上下することなどを説明した。

また、原告X1は、個々の証券を売買するごとに損益を計算し、Cに損失を早く取り戻すように催促し、Cはこれに応じて株式相場が順調に回復している状況下で原告X1の意向に沿うソニーワラントを勧誘したものである。そして、行使価格、行使期限が四年であること、業績が良く値上がりが期待できること、国内ワラントで為替相場の影響がないこと、価格が新聞に掲載されていること、ワラントの計算方法等を、過去の事例や例え話を交えつつワラントの商品内容を説明した。

さらに、Bが大阪支店に転勤すると、原告X1は、平成三年二月二一日、大阪支店に再び取引口座を開設し、Bから損失が比較的小さかったイズミワラントと、行使期限が近づき価格が上昇する可能性が低かった協和発酵ワラントの売却を勧められ、これに応じて売却した。

以上から、原告X1には、ワラント取引の適合性もあり、取引にあたっての説明義務も尽くされている。

(二) 原告X2

原告X2は、平成元年当時、玩具、人形の販売業を営んでいたが、総額五〇〇〇万円の証券取引、毎月二、三〇万円の郵便局簡易保険に投資し、定期預金も有しするほか、芦屋、元町に不動産を有しており、所得番付に掲載されたことがある。被告会社との証券取引は昭和五八年取引口座を、同五九年に信用取引口座を開設してなし、その他野村証券でも株式取引を行っていた。昭和五九年からした神栄石野証券での取引は株式取引とりわけ信用取引が多く、その額も億単位の損益を生じるなど取引規模は極めて大きい。また、原告X2は、被告会社神戸支店において本件取引以前に二回、住友商事ワラントの購入及び売却をした。

Bは、平成元年一一月二一日、原告X2による外国証券取引口座設定約諾書の作成とともに、同原告に対しワラント取引説明書を交付し、同原告からワラント取引に関する確認書の交付を受けており、ワラントの商品内容などを説明して取引を開始し、また、原告X2の投資判断は元々短期売買の傾向があったものである。

さらに、原告X2は、東京のGなる人物から独自の情報を得て、危険もいとわない利益追求思考の株式投資をしていた。

Bは、原告X2に対し、住友商事ワラントの購入を勧誘する時にも、外債であると言ったのではなく、ワラントであることを明確に説明した。

(三) 原告X3

原告X3は、c大学法学部を卒業後、d製薬株式会社において営業管理部門中心に業務に従事し、監査部監査課長を歴任し、定年前にはe株式会社業務部長の要職を経験している。証券取引も、被告会社との取引以前から現在まで日興証券を継続中であり、最高投資額は二五〇〇万円くらいあり、被告会社との取引は、債券、株式、転換社債、ワラント、投資信託等多岐にわたり、現金の出し入れも几帳面に行っており、担当者Dの言うがままに購入していたわけでもなく、ワラント取引の適合性に欠ける点はない。

昭和電工ワラントの決済日の残金出金が直接され、利益が出た取引があり、それ以後は売り急ぎを控えた事情すらあり、取引の対象を知らないことはあり得ない。

Dは、ワラントにつき一定の期間内に一定の行使価格の払込により新株を引き受けることのできる権利であること、価格は株価と連動するが値動きの幅は大きくそのためハイリスクハイリターン商品と言われていること、外貨建のため為替の変動の影響があることなどを説明し、説明書を交付し、平成元年五月一五日には、確認書の徴求をしている。

(四) 原告X4

原告X4は、従業員四〇名を擁するc株式会社守口営業所所長の地位にあり、証券取引も昭和四一年ころから安藤証券との間で行っており、証券取引の経験を有する。取引申込書では年収九〇〇万円、金融資産二億円、運用資産一〇〇〇ないし五〇〇〇万円と記載している。被告会社との取引では公募株の申込みは頻繁で、ナンピン買い等も行い、買付時にもこまめに銀行に入金するなど自己の判断で取引していた。なお、平成元年一二月二九日には信用取引口座を設定し、同二年八月二二日には株式指数オプション口座設定も行っている。

原告X4は、かねてから自己の業務と関係のある日本石油株式をできるだけたくさん購入したいとの希望を持っていたところ、平成元年一二月一八日の日石ワラント買付注文の際に、Eから一〇分以上もワラントの特質について説明を受け、確認書に署名、押印し、日時の記載等もEの面前でし、納得の上でワラントを購入した。現に平成二年八月には常磐興産ワラントの買付を巡る手違いの際にも、ワラントの仕組みや商品性についてトラブルがなかった。

(五) 原告X5

原告X5は、昭和一七年から同五七年まで教員をし、昭和三九年ころから内藤証券で株式取引を始め、その後和光証券でも取引口座を開設した。被告会社和歌山支店では昭和四六年八月H名義で、同年一〇月原告X5名義で、同年一一月一七日F名義で取引口座を開設し、H名義口座ではほとんど毎月二〇〇万円前後の株式を購入や、信用取引もし、証券取引について豊富な知識と経験を有していた。また原告X5は、転換社債に関する知識も有している。

被告Y1は、日本航空の公募株についてのダイレクトメールを返送してきた一顧客として原告X5と知り合うことになり、同原告からF名義の口座で右公募株に応募したいとの申出を受けた。そして、昭和六三年一一月一六日、荏原製作所の外貨建ワラントを推奨する際、電話でワラントの一般的な商品内容や荏原製作所の株価動向を説明した。原告X5からは、F名義で確認書に署名捺印をしてもらい受領した。

原告X5は平成元年三月九日東急建設株式会社三〇〇〇株を購入して約二週間で五二万円あまりの利益を得たことから、たくさんの株式を購入したいとの意向を示したため信用取引を開始するに至った。

被告会社は、平成元年一〇月六日、過去一年間以内にワラント取引があった者に対しワラントの意義、リスク、仕組みをわかりやすく説明した取引説明書を送付しており、原告方にも同月下旬ころ送付された。

4  原告らの損害

原告ら主張額が損害にあたるとの点は否認する。なお、原告らの中には期限経過前にワラントを売却しいくらかでも投下資本回収の機会があったにもかかわらずこれをしないで被告会社に全額請求することは筋違いである。

そうでなくとも、前記の各事情から、相当の過失相殺がなされるべきである。

第三  事実経過

甲第一ないし第七、第九ないし第六〇、第六二ないし第七一、乙第一ないし第二二、甲イ第一ないし第二一、乙イ第一ないし第三七、甲ハ第一ないし第六、乙ハ第一ないし第二〇、甲ニ第一ないし第一三、乙ニ第一ないし第一四、甲ホ第一ないし第六、乙ホ第一ないし第一一、甲ヘ第一ないし第一五、乙ヘ第一ないし第三八号証、証人B、同E及び同Cの各証言、第一事件原告X1、同X2、同X4、同X3、第二事件原告X5、第二事件被告Y1の各供述、並びに、弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

一  ワラントの特質と危険性について

1  ワラントの特質等

ワラントは、権利行使価格で新株を取得できる権利であることから比較的少額の資金できわめて大きな値上がり益を得て現物株式の何倍もの投資効率を期待することが可能な反面、権利行使期間の経過後においては権利を喪失して価値の全てを失い、権利行使期間経過前でも株価の上昇見込がない場合には発行会社の倒産とは関係なくほとんど無価値のものとなる危険性を有するが、一方では、信用取引と異なりリスクが投資金額に限定され、しかも、自らが権利行使するよりも、むしろ他の金融商品と同様に、ワラントの価格が上昇したときに売却して売却差益を確保することを目的とする取引がほとんどであった。

そして、ワラントの価格形成は、基本的には発行会社の株価に連動してパリティ(理論価格)が変動するものの、それ以外に、プレミアム(期待値)分も合わせ考慮して価格形成されるので、株式市況と一定の関係がある一方、価格変動の見込みは株価と比較すると複雑といえるが、本件各取引当時にはこのような特質について十分な知識を有する者は必ずしも多くはなかった。

2  日本国内における取引

ワラントは、昭和五六年の商法改正により認められたものの、流通市場の受入れ態勢の整備までの間は日本証券業協会の自主規制があり、昭和六〇年一一月から国内発行が認められ、円高の進行や株価の上昇ともにようやく昭和六一年から外貨建ワラントの国内取引がされるようになった。

外貨建てワラントの価格については、平成元年五月一日から日本経済新聞紙上に一部銘柄の店頭気配値が掲載されるようになるまでは、一般投資家がその価額情報を知ることができるのは証券会社への問い合わせないし会社四季報の記載程度であった。

日本証券業協会理事会は、平成元年四月一九日、ワラントの店頭気配値を毎日発表し、分離型ワラント取引が行われる際に証券会社から投資家に説明書を交付し、その際、投資者から自己の判断と責任において取引を行う旨の外国新株引受権証券の取引に関する確認書を徴収することを決定した。

さらに、大蔵省は、平成二年二月二二日、業者間市場を新設することを決定し、日本証券業協会は、同年三月一六日、同協会規則に投資勧誘、顧客管理等に関する規制を取り入れ、次第にワラント取引市場の整備が進められた。

3  被告会社の対応

被告会社においても、昭和六三年八月ころには分離型ワラントのパンフレット(以下「パンフレット」という)を作成していたが、その内容はワラントの概要、特徴、税金及び委託手数料及び価格形成の仕組みについて説明したものではあったが、事柄の性質上、相当程度以上の証券取引経験等を有しない者にはその危険性を直接知ることは困難なものであった。

そうした中、被告会社は、平成元年五月以降ワラント取引開始基準を定め、勧誘すべき顧客について、証券投資に関する相当の知識と経験があること及び原則として預かり資産額が一〇〇〇万円以上の者とした。

さらに、被告会社は従前から、顧客ら自身の判断と責任においてワラント取引をする旨の確認書(以下「確認書」という)を徴収することとしていたが、さらに、前記日本証券業協会理事会決議を受けて平成元年一〇月下旬ころには、外貨建ワラントや国債先物取引などの顧客を対象に取引説明書(以下「説明書」という)を送付することを制度化し、新規の顧客のみならずさかのぼって一年以内に取引のある顧客に対しては毎年自動的に送付することとした。これには、ワラントの商品内容について、リスクがあることを前面に出し、期限付き商品であること、ワラント価格の変動は株価の変動よりも大きいこと等の説明をした上で、ワラントに関する最低限の商品内容を説明していたが(なお、国内ワラントについてもほぼ同内容の説明書が別途作成されている。)、確認書の再徴収は制度としては不要とされた。

4  その後の経緯

平成三年秋以降、顧客が購入したワラントが行使期限経過により無価値となることが現実的となり、新聞、雑誌等に社会問題として大きく取り上げられるようになり、平成四年一月二七日には、弁護士からなる証券取引被害研究協議会が、証券取引の顧客から集計した相談内容をまとめ、証券取引法改正に向け、不公正取引の明確化、損害賠償請求権の明文化等についての意見書を作成した。

二  各原告ごとの事実の経過

1  原告X1

(一) 属性

原告X1(大正八年○月○日生)は、昭和一八年旧制中学を卒業後、満州において馬車運搬業を、戦後は故郷でゴム靴卸業を営んでいたが、昭和二四年には静岡県伊東市の温泉旅館の番頭として、さらに昭和二八年にはaホテルで名古屋と大阪の所長を務めるなどしていたが、昭和三八年に右を退社後、大阪市内において、東北と伊豆の旅館を会員とする旅館斡旋を行うbセンターの所長として、二七年間事業を継続した。

投資経験は、昭和四二年九月二五日、被告会社大阪支店に取引口座を開設して証券取引を始め、昭和五四年一〇月九日には信用取引口座を開設して(担当者秋田)信用取引を開始した。信用取引では差損がでれば差損金を支払って取引を終了する形態がほとんどであって、現引することはなかったが、現引の際に新たな現金を払い込む必要があることは知っていた。そのうち、例えば昭和五七年一〇月以降は毎月一〇数回程度の取引を行い、取引量は一回当たり数十万から数百万円程度であった。ところが昭和五八年五月ころからは、一ヶ月に数十回、一回あたりの額も六〇〇万円を超える取引も珍しくなくなり、一時取引量が少なくなることはあったが、昭和六〇年ころまでは概ね毎月数千万程度の取引規模で信用取引を継続していた。また株式取引における保有期間もほとんどが一ヶ月以内であった。このうち、昭和五七年二月ころから同六〇年二月初めに転勤するまでは、Bが担当者として原告X1に応対していたが、その後昭和六一年三月以降は、被告会社大阪支店での新たな買付けは全くなくなった。

ところが、原告X1は、Bが昭和六一年二月に神戸支店に配属となると、同年三月には、被告会社神戸支店に取引口座を開設し、当初は一〇〇万円前後の取引を一ヶ月当たり二〇回程度、昭和六二年二月ころからは一〇〇〇万円を超える取引も行い始めた。

さらに原告X1は、Bが平成三年二月に大阪支店証券貯蓄部に転勤となると、同月二一日Bを担当者として再び取引口座を開設し、株式などを売買するようになった。

(二) 取引開始の契機

Bは、昭和六一年一一月一七日、ワラントとしては初めての顧客として原告X1に積水ハウスワラントを推奨した。その方法は電話で一五分前後の説明をしただけで、行使期限の説明も転換社債の転換権の行使期間と同程度で、行使期限を過ぎれば売買できなくなるという説明はしたが、無価値になるという趣旨の説明はしなかった。B自身が当時価格形成の仕組みを知らずパリティやプレミアムの説明もしなかった。また、期限直前に新株引受権の行使をしてもよいとの説明はしたが、株式市場から購入するよりも割高になることもあるという説明はなかった。このように、Bは、権利行使期限や権利行使価格について特段の意識をしなかったが、これは原告X1の投資傾向として、短期売買も多く、ワラント取引も購入してから短期で売却し、利益を取得するものと考えていたからであった。

そうして、原告X1は、Bの推奨に応じ、同日、積水ハウスワラントを購入した。(この点、原告X1供述では、Bはワラントという言葉も使わなかったし、ワラントとの言葉は協和発酵ワラント購入の際に至って初めて聞いたと供述するが、後述の原告X1が積水ハウスワラントで取得した利益等に照らしてみれば、この時点になって初めてワラントとの説明をした経緯が定かではなく、にわかに採用しがたい。さらに、原告X1供述では、値が下がったら新株を発行してもらう権利があるから、額面で新株がもらえるものだと考えていたとするが、最低限度額面で新株をもらえるものならば、通常は一部上場企業でも額面金額が五〇円であることに鑑み、利点ばかりの取引であることに帰し、仮にそのように原告X1が理解していたなら、新株の発行を求めることがあってしかるべきであるのにかような形跡はなく、容易に採用できない。)

(三) 本件取引

Bは、原告X1に対し、引き続き昭和電工ワラントを推奨したが、この段になってもワラントが基本的には株式よりも価格変動が大きいと言う認識を有する程度であって、自分自身でパリティを計算したりすることはなく、利益が出ていることを被告会社管理部で計算してもらい、売りを勧めるという程度に止まっていた。

そうして、協和発酵ワラントについては購入直後は価格が上昇傾向だったもののすぐに低下する一方となり、購入時の水準に戻ることはなかったため売却時を逸してしまい、Bもワラントの推奨に消極的になっていった。

一方では、原告X1は、自身で新聞の株式欄を見るなどしていたが、積水ハウスワラントを購入した翌日に売却し、三六八万円余りの投資額で五〇万円以上の利益をあげたことを素直に喜んだ。

また、被告会社神戸支店管理部から、原告X1に対し、パンフレットが送付され、原告X1が確認書の日付欄に平成元年四月二〇日と記載の上、署名押印して送付し、同月二四日被告会社が受領した。(この点、原告X1は、パンフレットではなく説明書の送付を受けたと供述するが、説明書は日本証券業協会決議の時期に照らし元年四月には送付していないと認められるが、パンフレットは昭和六三年八月ころには被告会社において作成している。)

その後、平成元年一〇月ころ、被告会社の事務処理としての説明書の送付を行い、原告X1はこれを受領し、Bに説明書送付の趣旨を尋ねることもあった。

Bが、平成二年二月に被告会社神戸支店から転勤し、担当者がCに替わった後、Cが、平成二年三月、原告X1を訪れ、挨拶とともに預かり資産の内容等を話した。その後、同年六月、原告X1の信用取引において、新日鉄、川崎製鉄等で損失が出たため、結局約二〇〇〇万円ほどの損失を被って、信用取引を終了した。

Cは、同年六月以降においても、ソニーワラントの取引について、転換社債と比較しながら、ワラントが権利行使価格を新たに払い込む必要があること、土地売買の手付金と比較しながら、細かい点は違うことを念頭に置き、信用取引での追証の発生の様なことはなく、資金がゼロになるに止まるといったことを説明した。このように、Cが原告X1がワラントを含め証券取引に通じているとの認識を有しながら右のような説明をしたのは、それまでにワラントの含み損があったし、更に国内ワラントは原告X1にとっては初めてだったためであった。そうして、被告会社管理部は国内ワラントについては別途確認書を求めることとし、説明書及び確認書を送付して、原告X1からも同年六月一三日、確認書を返送した。しかし原告X1は、Cの説明を聞いても、信用取引の損失が大きく、しかも協和発酵ワラントの含み損も大きかったため、利益が上がるときには大きくあがるとのワラントの特質に着目し、そのリスクを深く考えることなく、しかも、説明書にはワラントの危険性が明記してあり、これを現実に一読しその内容を理解する能力も有りながらソニーワラントの取引をした。(この点、原告X1は、同年八月ころに確認書の送付があったものであり、形式的なものにすぎないと供述するが、そもそも確認書の作成経過につき明確な供述をしているわけではなく、外貨建ワラントとは別個に国内ワラントの説明書を作成していた点等から見ると、国内ワラントの購入に際して確認書を徴収したと考える方が自然である。)

本件取引中、Cが担当していた期間中のサンケン電気ワラントは、取引額が大きかったことから少額でも利益を得たいとの意向が強く、原告X1から積極的にその旨の指示があった。

その後、Cは、平成二年一〇月ころ、協和発酵ワラントについては行使期限まで二〇ヶ月を切ったことから、原告X1方を訪れ、大きく値下がりしていることを伝えたが、原告X1は、残存価値でも三五万円程度であり、それ以上は損失が広がらないことから、権利行使することをせず、もう少し様子を見ようと判断した。

原告X1は、Cの担当となってソニーワラントを購入した平成二年六月以後同年一一月までは毎月のようにワラントの購入をしたが、保有しているワラントの含み損が増加していったことなどから、以後ワラント取引を停止した。

(四) 本件取引後の経緯

被告会社は、平成三年一月ごろ、原告X1の取引に大きな損失が出ていることを伝え、同年四月ころ以降は、被告会社と原告X1との新たな取引はなくなっていった。

原告X1は、Bから協和発酵ワラントの行使期限が近づいていると聞き、平成三年九月三〇日、協和発酵ワラント及びイズミワラントをやむなく売却して、損失の拡大を防止した。

原告X2

(一) 属性

原告X2は、玩具販売店を業とし、所得番付に掲載されるほどの高額所得を有する者であり、昭和五八年ころから神栄石野証券において証券取引をし、指し値注文をするほど証券取引に通暁し、取引額も当初から一回あたり一〇〇〇万円を超える(ただし、継続的に行っている額は数百万円程度が主体である。)現物株式の取引を毎月のように継続し、昭和五九年からは信用取引を行い、短期の利食いをするために三ヶ月の期限のものにより多く投資し、一〇〇万円以上の損失を被ることもあった。さらに、昭和六一年ころからは、神栄石野証券における取引の六割ないし七割程度が信用取引によるものであり、差し入れた保証金残高も四五〇〇万円を超えるほど多額で、その他投資信託、転換社債等多彩な商品について取引を行っていた。

この間、証券投資に詳しいGから独自の情報を得て、神栄石野証券との取引に活用し、必ずしも証券会社の情報に依存することなく証券取引を継続していた。

原告X2は、妹の夫を通じて被告会社担当者Bと知り合い、昭和六三年一〇月五日保護預り口座を設定して被告会社との取引を開始したが、被告会社神戸支店において、取引した現物株式は一〇数銘柄にすぎないものの、そのうち、林兼産業、本州製紙、鬼怒川工業ゴムといった、いわゆる仕手株も自ら銘柄指定して取引していた。しかも、ちょうど価格が上がり始めるころに買いを入れたこともあった。

(二) 取引開始の契機

Bは、右のとおり原告X2がリスクの大きい取引をしていたためワラントの購入を勧め、平成元年一一月二一日には電話で、ワラントに権利行使期限がありそれを過ぎると売買できなくなること等を説明したが、Bの説明は株価と一応連動すること、行使価額が決まっており権利行使の際にはその額で買うことになること、権利行使期限が来ると売買できなくなる等という程度に止まり、権利行使期限後に無価値となることを明確に説明することはなかった。

そうして、原告X2は、同日、住友商事ワラント二六〇万円余りを購入し、三日後の同月二四日に右を七万四二八四円の利益を出して売り付けた。更に、原告X2は、同月二七日にも住友商事ワラント一四五万円余りを購入したが、この日になって初めて、外国証券口座設定約諾書を作成し、Bから、ワラントの説明書、預り証を受取って確認書を作成し、約一五分程度の説明を受けたが、原告X1は、十分に確認書を読むことなく、短い時間で確認書を書いた。そして、四日後の一二月一日に右住友商事ワラントを売り付け二万一〇〇〇円ほどの利益を出した。このいずれの取引も原告X2が、少しでも利益が出れば売却するようにかねてからBと打合わせていたことから、短期で売却したものであった。(この点、原告X2は、行使期限があることもワラントと言う言葉さえもこの当時聞いていないと供述するが、一方ではこれ以前に他の証券会社に騙されたとか、住友商事ワラントの購入は当初断ったと供述したり、また、Bの勧誘する取引では未だ利益を上げていなかった経緯、前記のような仕手株の短期売買といった取引傾向に鑑み容易に採用しがたい。)

(三) 本件取引

その後Bは、平成二年一月五日、電話により、ワラントの銘柄として、平成元年一一月九日にいわゆるベルリンの壁の崩壊があったため商社株の価格には期待がもてたことや、住友商事ワラントで利益を上げていたことから、トーメンワラントを推奨した。(この点、原告X2は外債であると説明した、あるいは元本保証であるとの説明をしたと主張するが、前記原告X2の取引経緯、取引態様に鑑み、このときには元本保証であるかを気に懸けたとみるのは不自然で、容易に採用できない。)

これに対し、原告X2は、かかる電話で即座に回答して購入し、同年一月一〇日、購入代金一四四万円余りを入金した。

(四) 本件取引後の経緯

Bは、原告X2から、平成元年の夏と、平成二年二月にBが北浜支店に転勤したころの二回にわたり電話を受け、本件取引においてトーメンワラントを売りたいとの話があり、その価格が下がっていることに関して苦情を受けたが、その際には、外債であると説明したといった苦情ではなく、単に価格が下がったので損失を被告会社が補填して欲しいと言った内容に止まっていた。

被告会社の社員である堀が、平成四年一月ごろ原告X2方を訪れトーメンワラントがほとんど無価値となっていることを告げ、トーメンワラント価格があがることのないまま行使期限が迫っていった。

3  原告X3

(一) 属性

原告X3は、昭和四年生まれで、c大学法学部を卒業し、d製薬に就職以来、同社の監査部監査課長を務めるなどし、平成元年に退職した。

被告会社との取引を開始する前に、日興証券において、昭和五四年から利付き国債などを購入し(このような取引は現時においても継続している。)、その他、転換社債、投資信託の取引も行っていた。

そして被告会社とは、昭和六〇年一月に割引長銀債券を約一九〇万円購入したことから取引が始まり、NTTや塩野義製薬の現物株式をそれぞれ二〇〇万円程度購入した。

その後、被告会社担当者がDになった後は昭和六三年六月二〇日住友信託銀行の転換社債を一〇〇〇万円購入してから取引量が急激に増大し、同年秋ころから転換社債や現物株式を短期で乗り換えて購入するようになった。取引する銘柄は全て被告会社担当者からの勧誘で決めていたものだったが、原告X3においても、転換社債を購入し、新聞に掲載される価格を見る程度はしていた。

原告X3は、転換社債については、株式に転換するものであって行使期限があることは知っているものの、転換権を行使するときに払込金が必要かどうかなどは興味がなく、むしろ、価格の変動によって売却し利益を取得することを目的とするものであった。

(二) 取引開始の契機

原告X3は、平成元年四月六日、Dから電話により、夜八時ないし九時ころ、昭和電工のワラントを被告会社が保有しているので購入しないかと勧誘され、詳しく説明を聞くこともなくこれを購入した。そして、新株引受権であること、行使期限があること、行使期限が来れば価値を失うこと、行使価格があることも説明を受けなかった。その電話の時間は五分程度のことであった。

(三) 本件取引

そうして、原告X3は、昭和電工ワラントを購入後、被告会社から送付されてきたパンフレット及び確認書用紙を受領し、確認書に署名捺印の上、平成元年五月一五日、返送した。その後は、戸田建設、キャノン、東京製鉄、新日鉄のそれぞれワラントを購入していった。

そして、原告X3は退職し、平成二年七月四日に新日鉄ワラントを売却して二五五万円余りの損失を被った後である、同年七月一三日、説明書を受領して国内ワラント取引に関する確認書に署名捺印の上、被告会社に送付した。(この点、原告X3は、九月に送付を受けたとも供述するが、供述の経緯に鑑み容易に採用できない。)

しかし、右説明書に十分目を通すことはなかったし、他のワラントの価格を被告会社担当者に聞くこともなく、景気が回復することを期待して、ただ担当者からの連絡を待っていた。

(四) 本件取引後の経緯

担当者がIに交代してから昭和電工や三菱ガス化学ワラントの価格が下がっていることを伝えてきたが、まだ価格が回復する可能性もあると考えて売却しなかった。

そうして、原告X3は、平成四年六月になりワラントを購入していることが、社会問題になってから弁護士に相談した。

4  原告X4

(一) 属性

原告X4は、年間二億円ほどの販売高を挙げ、四〇名ほどの正社員を抱えるc株式会社守口営業所の所長であるが、証券取引の経験としては、昭和四五年ころ、安藤証券において、取引先とのつきあいで二銘柄ほどの現物株式を購入しただけであった。

被告会社との取引は、原告X4が、平成元年一〇月ころ、原告X4の営む自動車販売業の取引先である運送業者の運転手をしていたEの父を通じてEと知り合って始まった。

原告X4の取引資金は、居宅の建築費用として、自宅の土地建物を担保に六〇〇〇万円を銀行から借り入れしようとしていたが、居宅の建替を中止したため資金的余裕ができたものであり、本件取引を含め被告会社との取引全体は借入によるものが原資となっていた。Eは、平成元年一一月三〇日、電話で積水化学の公募株を勧誘し、原告X4はこれを受けて一二月一日約定し、同月四日に振込送金した。更に、同月六日、日本航空を購入し、翌七日に振込送金し、右両株式の合計金額は約一〇〇〇万円となった。そうして、同月一二日日本石油株を買い、その後もいくつかの現物株式を購入した。

(二) 取引開始の契機

原告X4は、平成元年一二月一八日、日本石油の現物株を買おうとEに電話連絡したが、Eから現物株は価格が上がっているからとしてワラントの購入を勧められた。原告X4は、一、二分程度の短い通話でワラントの危険性を認識できるだけのさしたる説明も受けないまま、株式に転換できる債券といった程度の認識を持つにすぎなかったが、それ以上は特にその場で説明を求めることもなく、同日、日本石油ワラントの買い注文をした。原告X4は、同様に、翌一九日日本鉱業ワラントの買い注文をした。(この点、Eは、同年一二月一八日、ワラントの勧誘をする際、電話により、権利行使期間及び権利行使価格が決まっていること、権利行使期間内に権利行使しなければ権利が消滅すること、新たにお金を入れることによって新しい株式を取得できること、更に外貨建の場合には為替リスクも伴うことを説明したと供述するが、一方では、同日、原告X4と面談して口座設定申込書を面前で記入してもらったとも供述し、これは右のように電話で説明したという行為がこれと符合しないし、申込書の記載がこれに遅れる一二月二〇日である点からしても、にわかに信用しがたい。)

(三) 本件取引

そして、原告X4は、同年一二月二〇日、ワラントの商品説明を求めるため、前もって預かっていた平成元年一二月一八日付で記載した総合取引申込書を持参して(その申告年収額は約九〇〇万円で、同金融資産は二億円、運用予定額として一〇〇〇万円から五〇〇〇万円と記載した。)、被告会社営業所を訪れたが、Eが忙しそうにしていたため十分な説明を受けることも、ワラントのパンフレットの交付を受けることもなかったが、確認書を作成し、同時に外国証券取引口座を設定した(この点、Eは、原告X4の職場までパンフレット、確認書及び外国証券口座設定約諾書を持参して訪れ、ワラントについての説明もしたと供述するが、後述の常磐ワラント取引に関する供述等も曖昧でにわかに信用しがたい。)。

その後、原告X4は、同月二一日に本件取引の決済資金を振り込んだ。

(四) 本件取引後の経緯

原告X4は、Eの勧めで、平成元年一二月二九日、信用取引口座を設定して信用取引を開始し、平成三年までの間おおむね数百万円単位で継続的に取引をした。

原告X4は、平成二年六月ころ、ワラントには行使期限がありそれを徒過すると全く無価値になることを被告会社以外から聞き及んで被告会社支店長に会ったが、損失を補てんする形での処理を拒絶され、原告X4としても損失をかぶる形での処分を躊躇した。その後、Eは、同年八月一七日及び二〇日、原告X4の口座で、同原告の意向を十分確認せずに常磐興産ワラントを買い付け、しかもすぐに値が下がって損失を出したため、原告X4からまた苦情があり、被告会社が値下がり分の九〇万二一九八円を負担して買い戻す形で処理した。

一方で、原告X4は、同年八月二二日には株式指数オプション取引を一回した。

その後、原告X4は、平成三年四月から八月まで心筋梗塞で倒れて入院することもあったが、同年一〇月ころ、被告会社からワラントの取引で一八四九万二二〇〇円の損失が出ているとの通知を受けるに至った。

原告X5

(一) 属性

原告X5は、昭和一七年女子師範学校を卒業後すぐに教員となり、昭和五七年三月退職までは教職にあった。

原告X5は、被告会社との取引以前にも相当数の株式取引をしており、被告会社とはまだ教職にあった昭和四六年一〇月一日に自己名義の、同年一一月一七日には、子息であるF名義で、そのほか、同年八月にもH名義で保護預り口座を開設したが、これらはいずれも原告X5が入出金して管理していた口座であり、取引開始の初めころに、従前から取引で取得していた株式を右各口座で合計約二〇銘柄を入庫した。

その後、F名義口座では、昭和四九年以降昭和五六年八月まで転換社債の利子を受領する程度の取引であったが、昭和五七年から現物株式を数十万円から数百万円単位で取引を始め、更に、昭和五八年五月一二日、F名義で外国証券取引口座を設定する旨約諾し、実際に外国株券の購入も開始した。一方では、取引当初は、中期利付国債など堅実な運用も平行して行っていた。その後、右現物株式等の取引量も増大し、大きなものでは一〇〇〇万円を超える外国銘柄を含み、昭和六〇年ころからは、転換社債の取引が増大し、昭和六二年以降は転換社債の取引がかなり多くを占めるまでになった。更に、平成元年四月一三日、F名義で信用取引口座を設定して信用取引も開始し、決済方法としても現引きもし、払込金を支払うこともあった。

その後、原告X5は、平成二年五月一四日、F名義で、店頭取引に関し相対取引は市場性が薄いこと、全て指値注文であることを確認する旨の確認書を交付した。

一方、H名義の口座においても、当初は投資信託、割引金融債、転換社債等の取引を行い、昭和四九年には信用取引口座を設定し、昭和五〇年五月ころから同五一年ころには右投資信託等に平行して、毎月のように数十万円から約二〇〇万円程度の株式を購入し、信用取引の決済額が一度に一五〇〇万円を超えるものも存し、六ヶ月以内の短期売買をなす取引指向を有していた。このため、昭和四八年から昭和五一年の間の取引総額は株式のみでも売付額で四〇〇〇万円を超え、また、転換社債の取引もいずれも一年以内に売却し、昭和六〇年三月には外国証券取引口座も開設した(但し、現実の取引は認められない。)。

右の取引中、原告X5は、転換社債で約三〇〇万円の損失を受け投機商品の恐さも知っていたが、なお、会社四季報をもらったり、新聞で株価を見るなど、株価の推移にも相応の関心を持っていた。

また、原告X5は、和光証券においても、昭和六三年、原告X5、F及びHの各名義で取引口座を設定し、現物株式、転換社債、投資信託の取引をした。

被告Y1は、日本航空公募株に関するダイレクトメールに対し返答してきた原告X5に架電し、右公募株一〇〇株の注文を受けた。かかる取引口座として、前記のF名義口座を利用した(これに対し、原告X5は、右と異なる供述をするが、陳述書(二通)及び供述の変遷、食違いに照らし、容易に採用できない。)。

(二) 取引開始の契機

被告Y1は、昭和六三年一一月一六日、原告X5に対し、電話によりワラント購入を勧誘をした。その際、被告Y1自身は被告会社店舗内にあったパンフレットを見ながら、ワラントの意義、価格の生まれ方、すなわち株価と一応連動はするがより大きな値動きをすること、権利行使期間があること、外貨建てであること、基本的には株の派生商品であることを説明したが、権利行使期間の経過によりワラントが無価値となることを意識的に説明したわけではなく、事前にパンフレットの交付したわけでもなかった(この点、被告Y1は、無価値になると説明したとも供述するが、一方で権利行使できなくなると説明したとも供述するなど曖昧で、後述のとおり確認書の聴取はこれに数ヵ月遅れており、ワラントの右特質の説明が必要であることを意識していたとは考え難く前記供述は容易に採用できない。)。

そうして原告X5は、同日、F名義口座においてワラントとしては初めて荏原製作所ワラントを購入した(この点、被告Y1供述には、同日ないし翌日に原告X5宅をパンフレット等をもって訪れてワラントの説明をしたとする点も存するが、後述のとおり確認書の徴収を行っている経過に鑑みるとき、このとき確認書用紙と一体となっているパンフレットを持参してわざわざ説明した経緯が不自然であって、容易に採用しがたい。)。

原告X5は、この後、なかなか荏原製作所ワラントで利益を得る時機がなかったので新たな買付は断っていたものの、その後右ワラントを売却して利益を得ることができたためさらに日本石油、住友金属鉱山、コマツ、日東紡績等と別紙商内調査票のとおりの各ワラントを購入し、そのうち本件取引までの間には即日売却したものもあり、そのいずれについても比較的短期で利益を出して売却した。

(三) 本件取引

そうして、原告X5は、平成元年二月一五日、新日本製鉄ワラントを購入して本件取引を開始したが、同年三月二二日ころ、ワラントのパンフレットの交付を受け、ワラント取引に関する確認書に、F名義で署名押印の上、被告会社に提出した。(この点、原告X5は平成元年三月一六日から少なくとも二八日までは被告Y1から連絡がなかったとして三月二二日に確認書を書いたことはないと供述するが、一方では三月二〇日に同人から電話連絡があったと供述しているうえ、同月二二日に株の売却を被告Y1を通じて行ったとも供述し、これらは原告X5の日記(甲ヘ第一四号証の一ないし六)の記載内容とも符合しており、被告Y1の平成元年三月二五日の結婚式当日との関係に鑑みると、右原告X5の供述は採用しがたい。また、原告X5は、被告Y1からワラント価格は時期的に下がる心配はないと説明を受けたと供述するが、前記と同様にわかに信用しがたいし、更に、本件取引中の平成元年四月ころ、原告X5はFからワラント取引は危険であるからやめるようにとの示唆を受けていたとの供述も、その当時までの原告X5のワラント取引は利益になりこそすれ損失はそれほど出ていないし、Fがワラントの商品内容に着目したものとしても、まだ広くその危険性が報道されている時期でもなく、しかも危険性という意味では投資額以上のリスクのある信用取引については放置している状況であって、ワラントについて特段の注意を払ったとの経緯が不自然であるうえ、現実に原告X5はワラント取引を継続しており、容易に採用できない。)

本件取引に平行して、トヨタ、ホヤの外貨建ワラント、ダイエーの国内ワラントとワラントの購入を続けたが、いずれも利益を出して売却した。また、この間、平成元年一〇月下旬ころには、被告会社は説明書の送付も行った。

原告X5は、更に、平成元年一一月二九日以降も、旭化成、三井物産、大阪ガス、住友不動産、昭和アルミニウムのワラントを同年一二月二〇日までの間に立て続けに購入して利益を得て売却し、翌平成二年も一月一二日リョーサン、四月二〇日三菱金属のワラントを購入し、いずれも利益を得た。

(四) 本件取引後の経緯

原告X5は、本件取引である古河鉱業ワラントの取引終了後は平成二年八月のイラクのクエート侵攻以後、株式市況全体が値下がり、次第に暴落すると、同年八月一六日にスター精密株式を購入した後取引はせず、平成三年四月ころ以降は、Fに取引口座の管理を任せるに至った。

そこで被告Y1は、Fに対しF名義口座での取引を勧誘し、Fは転換社債や新規公開株を購入したが、これによっても利益を得ることはなかったため、取引自体をすることがなくなった。

一方、被告会社は、平成四年四月三〇日、その当時権利行使期限の近づいたワラントの案内を原告X5に送付し、さらに同年一〇月三〇日にも、同様に送付した。

第四  判断

一  勧誘自体の違法性について

前記認定のとおり、外貨建ワラントを含むワラント一般は、商品そのものに欠陥があるわけではなく、法律により取引が認められているものであるから、これを一般に販売すること自体が違法であるとは到底いえない。また、原告らの主張が、一般投資家に対する販売は禁止されるとの趣旨としても、その一般投資家の定義は定かではなく、結局は、個別具体的に顧客の知識経験に照らして、後述のとおり適合性原則にかなったものといえるかどうかを判断するより他はない。

二  勧誘態様の違法性について

一般に証券の市場価格は、当該発行会社の業績のみならず、種々の複雑な要因が絡み合って形成されるものであって、その確実な予想は本来的に不可能なものであるから、証券を購入しキャピタルゲインを得ようとする者は、証券会社の従業員からの情報提供をも参考にしながら、基本的には、自らの判断と責任において取引を開始継続するべきである。

しかし、証券会社は、監督行政庁より免許を受けて証券業を営み、証券取引に関する知識と経験が豊富な専門家であって、そのため一般の投資家も証券会社の提供する情報、勧誘等について高度の信頼を置くのであって、証券会社としては当該証券や販売対象とする顧客の知識能力に応じて、当該顧客が正しい知識を得て、自らの判断ができるように配慮するべきである。

このことは、原告主張の各法令のみならず、証券業界内における自主規制などにおいても十分に看取できるものである。

そうとすれば、証券取引に従事する証券会社なかんずくその販売担当となる従業員は、顧客がその知識と経験に応じた商品を購入することができるように配慮した上で、販売対象となる商品の正しい知識につき理解ができるように情報提供して説明し、決して誤解を生じさせるような説明をしてはならないものである。

右観点からすれば、顧客の投資経験に照らし適合した商品、とりわけその資金力などを考慮して商品を推奨すべきであり、これに反した商品を推奨することは違法となり得る上、新たな商品を推奨するときには、当該顧客に取引の妥当性を判断させるために最低限必要な事項の説明をする義務があり、ワラントにおいては、権利行使期間があり、それを経過すると無価値となること、また、行使視感が迫るほど一般に価格が下がっていくこと、さらに、権利行使するためには権利行使価格を新たに払い込む必要があることを説明する義務があるといわねばならない。

そこで、以下各原告ごとに検討する。

1  原告X1

(一) 適合性原則違反

前記のとおりの、原告X1の知識経験、とりわけ、ワラント以外の取引の種類、量、態様に鑑み、適合性がないとはいえない。

(二) 説明義務違反

Bは、行使期限の説明を、一応はしているものの、両当事者ともに短期売買を念頭においていたため、Bは十分に行使期限が来たときの効果を説明することなく、単に行使価格を述べた程度のものであり、前記の原告X1の知識経験に照らして考えても、未だ説明義務を果たしたとは言い難い。

この点、Bは、行使期限を過ぎると売買できなくなるとの表現で説明したが、これのみにては未だ前記ワラントの特質を説明したとはいえず、被告会社は説明義務を果たしたは言い難い。

なお、マイナスパリティのワラントを推奨したこと自体をもって説明義務を果たしていないとの主張もあるが、ワラント取引が値上がりによる短期売買により利益を取得することを主たる目的として取引されている以上、これのみにては説明義務違反があるとは判断できない。

2  原告X2

(一) 適合性原則違反

確かに、原告X2は本件取引当時六五歳であったが、これを一概にワラント取引に適さないほど高齢であったと判断できず、実際に自営業を自ら営んでいたことや、信用取引を含む長期間かつ多額の取引経験、仕手株を含む株式に投資する投資傾向に照らし、株式よりも危険性は高いものの投資効率の良いワラントの取引をしたことが適合性を欠くとは言いがたい。

(二) 説明義務違反

前記のとおり、Bは、住友商事ワラントの勧誘の際、新株引受権の取引であって、株式の価格に連動するもののそれ以上に値動きは激しく、行使期限がありその期間を過ぎると売買できなくなること、行使価格があることは説明しているものの、前期と同様、売買できなくなるとの説明では、十分説明を尽くしたとは言い得ず、しかも説明書の交付はこれに遅れる平成元年一一月二七日であり、交付時にも読んでおいてくださいという程度で説明後に顧客の投資判断を仰ぐとの姿勢もなく取引を勧誘しているのであって、前記X2の投資経験、証券会社に依存しない投資判断をしていた経緯を考慮してもなお、説明義務違反があると認められる。

(三) 断定的判断の提供、虚偽表示・誤解を生じさせる表示及び錯誤無効

前記認定事実のとおり、Bは、外債であるとか、元本どころではなく確実に利益を取得できる商品であると説明した事実は認められず、錯誤無効等の主張は理由がない。

3  原告X3

(一) 適合性原則違反

原告X3は法学部を卒業した後大企業の課長等を歴任した経歴があり、日興証券における昭和五〇年代からの証券取引経験は、利付き国債に始まり、現物株のみならず転換社債、投資信託も含み、現在も継続し、また取引額は一五〇〇ないし二〇〇〇万円程度で必ずしも少額とは言い難いことからすれば、適合性がないとはいえない。

(二) 説明義務違反

前記のとおりの事実関係から、被告会社の説明義務違反は免れない。

4  原告X4

(一) 適合性原則違反

たしかに前記のとおり証券取引経験は少ないが、その自動車販売業の事業所所長という地位、資金量等に照らし、適合性がないとまでは言い難い。

(二) 説明義務違反

前記のとおり、Eは、原告X4に対して十分な説明をしているとは到底いえず、説明義務違反は免れない。

(三) 断定的判断の提供、虚偽表示及び執拗な勧誘

前記認定の事実のとおり、Eの言った言葉の中に「儲かります。」との文言があったとの認定はできないが、仮にあったとしてもこれを必ず利益を取得するとの意味で使用していたとは認定できず、断定的判断を提供したとまではいえないし、虚偽表示を行ったり、その勧誘が特に執拗であったとの事実は認められない。

5  原告X5

(一) 適合性原則違反

確かに、原告X5は七〇才ほどの年齢であったが、同原告のなしてきた取引は、転換社債、信用取引等を含み取引対象も多様で、長期間にわたる多数かつ多額にのぼり、多数の証券会社を相手としている上、多数の名義口座を分けて取引を行っており、しかも信用取引の決済方法においても現引きを行っており、短期売買を継続的に行っていた取引傾向をみると、ワラントについて、適合性を欠くとは到底言い難い。

(二) 説明義務違反

前記のとおり被告Y1は、当初、同人自身はパンフレットを見ながらではあるが、原告X5には交付しないまま電話で、時間的にも短い説明を行ったに過ぎず、権利行使期間の経過により無価値となることを特に意識して説明してはおらず、原告X5の証券取引経験をもってしてもなお、前記のとおりのワラントの商品構造を伝え、投資判断を行うに足りるだけの説明を行っているとはいえず、被告らの説明義務違反は免れない。

(三) 断定的判断の提供、執拗な勧誘、仕切拒否

前記のとおり、その文言が断定的判断を提供したとはいえないし、特に執拗な勧誘があった事情も認めがたく、仕切拒否をした事実は認められない。

三  損害額

1  原告X1

(一) 損失額

本件取引による損失 金一〇八三万六四二五円

なお、右額は被告会社におけるワラント取引の全てによる損益を相殺済みである。

(二) 過失相殺

そもそも、原告X1は、説明書を読みその内容を理解する能力がありながら、これを熟読ないし分からない部分や不審な部分があれば質問するなどして納得してから取引を開始すれば足りるものをこれをせず、しかも、積水ハウスワラントを購入した際に、一日で五〇万円もの利益を出しておきながら、仮にこれを公募株等別種の取引であると認識していたとしても、これが相当投機的な取引であることは容易に認識しえたものである。更に、株式のみならず、ワラントにおいても報告書が送付されてくると翌日には損益の計算をするなどして資産管理をしようとの意識、能力があるにもかかわらず、これをしないで放置したことに帰する。(なお、額面での権利行使ができるとの件も、有名銘柄の場合ほとんど常に利益となることとなり、考えがたいほど利益となるのであって、前記の原告X1の理解力に照らし、かかる理解をしていたとは到底考えがたい。また、原告X1は、ワラント取引説明書の内容につき回りくどくて理解できなかったと供述するが、前期同様にわかに信用できない。)

とりわけ、担当者がCに替わってから(ソニーワラント以降)は、国内ワラントであったことからたとえ話などを交えながら、説明しており、これにより疑問が生じれば、質問するなどして、理解を深めることができたのであって、自らの理解につとめずこれを放置したといえる。

これらの点を考慮すると、原告X1の過失は免れず、その損失額の七割を減殺するのが相当と認められる。

(三) 弁護士費用 金三三万円

右損失額に過失相殺割合を乗じた額の、約一割を弁護士費用として相当と認める。

原告X2

(一) 損失額 金一三四万六二〇八円

本件取引による損失 金一四四万一五〇〇円

損益相殺 金九万五二九二円

本件取引以前に、原告X2は、被告会社において、住友商事ワラントを二回購入して売却していずれも利益を得ており、合計すると右金額となるが、これは前記説明義務違反に基づき取得したものといえる。

(二) 過失相殺

前記のとおり、原告X2は極めて豊富な投資経験とともに、被告会社との関係において独自の判断をしていたものであって、信用取引を含む投資経験があり、また、本件取引(損失が出ている取引)以前に既に説明書の交付を受けているのであって、その説明書を読めば、ワラントの性質、危険性を容易に理解できたにもかかわらず、本件取引をしたものであって、原告X2の過失は免れず、その過失割合として八割を相当と認める。

3  原告X3

(一) 損失額

本件取引による損失 金七一五万五九六二円

なお、右額は原告X1の場合と同様、損益を相殺済みである。

(二) 過失相殺

前記原告X3の社会的地位及び取引経験、なかんずく法学部を卒業しているとの経歴に鑑み、少なくとも二度にわたるパンフレットないし説明書の受領後はそれを熟読し理解に努めるべきであって、しかも平成二年七月段階で新日鉄ワラントを五ヶ月ほどで四割もの損失を被っている実体験を有しているのであって、ワラントの危険性を認識する機会を十分に有しつつ、これをしないまま処分しなかった点にその過失は免れず、その過失を六割と認める。

(三) 弁護士費用 金二九万円

右損失額に過失相殺割合を乗じた額の、約一割を弁護士費用として相当と認める。

4  原告X4

(一) 損失額

本件取引による損失 金二一七一万三八六二円

(二) 過失相殺

前記のとおり、平成二年六月ころには、原告X4はワラントの性質として期間を経過すると全損となることを現実に知っていた上、その後常磐興産ワラント取引に関するトラブルの際には、苦情を申し立ててその苦情に対応して損失を補填されているのであって、その当時の知見をもってすれば、本件取引におけるワラントを処分して損失額の拡大を防止することは極めて容易であったのに、これを放置している点には過失を免れない。但し、本件取引までの投資経験はそれほどないこと等からすると、過失相殺割合として一割を相当と認められる。

(三) 弁護士費用 金一九〇万円

右損失額に過失相殺割合を乗じた額の、約一割を弁護士費用として相当と認める。

5  原告X5

(一) 損失額 金一二二九万七四五一円

本件取引による損失 金一六〇〇万〇八七二円

損益相殺 金三七〇万三四二一円

原告X5は、別紙商内調査票記載のとおりのワラント取引を行っており、これにより、右金額の利益を取得している。

(二) 過失相殺

原告X5の前記取引経験、なかんずく、投資期間、信用取引、転換社債をも含む投資対象、短期売買の投資傾向、複数の証券会社や複数名義の取引口座での取引、さらに、原告X5が長年にわたり教師生活をしていた社会的地位、被告会社との証券取引開始当時においては教職に付いていたこと等に鑑みると、平成元年三月二二日にパンフレットの交付を受けたことからその内容の理解に努めるべきところこれを怠り、平成元年一〇月下旬ころには説明書の送付を受けながらも熟読した節はなく、さらに、前記のとおり平成三年秋ころにはワラントが社会問題となっており、被告会社に損失を補てんしてもらった経験があったためか、本件ワラントを処分しないまま放置した点にはその過失は免れず、その年齢等を最大限に考慮してもなお、その過失割合は七割を相当と認められる。

(三) 弁護士費用 金三七万円

右損失額に過失相殺割合を乗じた額の、約一割を相当と認める。

第五  以上のとおり、本件請求は、いずれも、主文記載の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉安一 裁判官 今井攻 裁判官 武田正)

<以下省略>

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